クレジットカード業界におけるAI活用の「いま」と「これから」

審査や債権管理、不正利用対策の課題解決から業務全体の変革、さらには法規制への対応まで、近年のクレジットカード業界ではAI(人工知能)技術の導入が急速に進んでいます。なかでも、審査や債権管理、不正利用対策といったコア業務では、業務効率の向上だけでなく、判断の精度向上にもAIが浸透しはじめています。

本記事では、国内の動向を踏まえながら、国際的な規制、業務アプリケーションの進化、そして将来的な内製化の可能性と課題など、さまざまな観点からAI活用の「いま」と「これから」についてまとめています。

目次

  1. 審査業務におけるAI活用の高度化
  2. 債権管理業務におけるAIの実用化
  3. 不正利用対策におけるAI活用の進化
  4. AIの活用を前提とした業務アプリケーションとは?
  5. 外部委託から内製化へのシフトとその課題
  6. EUによる国際的な法規制と日本における対応
  7. AIは「道具」から「経営資源」へ

1. 審査業務におけるAI活用の高度化

これまでのクレジットカード審査では、スコアリングや属性情報に基づいたルールベースの判断が一般的でした。しかし近年は、機械学習を活用し、過去の取引履歴など多様なデータを総合的に分析することで、より精緻な与信判断が可能になっています。

特に、自己学習型のモデルでは、信用リスクの変化にもリアルタイムで対応できるため、従来のモデルでは難しかった柔軟な審査が実現しつつあります。

2. 債権管理業務におけるAIの実用化

債権管理の分野でもAI活用が進んでいます。たとえば延滞リスクを予測するモデルを活用することで、リスクの早期把握と対応が可能となり、督促業務にかかるコストの最適化にもつながります。

さらに、顧客ごとの反応や支払い傾向をAIが学習し、電話・SMS・SNS・メール・郵送など、最適な督促手段や実施タイミングを提案してくれることで、パーソナライズされた督促が実現できるようになっています。

3. 不正利用対策におけるAIの進化と課題

キャッシュレス決済の拡大とともに、不正利用の件数は増加傾向にあります。不正検知では、異常検知やパターン分析といったAIのアプローチが進化しており、セキュリティ強化に大きく貢献しています。

ただし、攻撃者側も生成AIなどの技術を活用するようになり、不正手口の巧妙化が進んでいる点には注意が必要です。

また、不正検知後の対応(利用者連絡、取引確認、関係先との調整など)にはいまだに人的リソースが多く必要で、業界全体で「検知後の業務プロセスの効率化」が大きな課題になっています。

RPAやBPMなどを活用し、交渉フローやタスク期日管理を含めた「Hyper Automation」の実現に向けた取り組みが今後さらに重要になるでしょう。

4. AIの活用を前提とした業務アプリケーションとは?

AI導入の効果を最大化するためには、単にAIモデルを組み込むだけでなく、業務アプリケーション自体をAIとの連携を前提とした設計に見直すことが求められます。

  • 審査業務アプリケーション
    • 与信スコアや真贋判定など、複数モデルとの連携
    • 判断根拠を明示するUIの実装
  • 債権管理業務アプリケーション
    • 延滞予測モデルとの連携
    • 督促チャネル拡大と最適化
    • AIオペレーターの活用
  • 不正検知業務アプリケーション
    • 加盟店やカードブランドとの対応履歴トラッキング
    • タスク期限管理とワークフローによる自動化

こうした高度なアプリケーションを自社で構築・運用していくには、理想としては外部ベンダーへの依存を減らし、内製化を進めることが望まれます。ただ、技術進化のスピードを考慮すると、外部ベンダーと連携しながら柔軟に体制を整えていく現実的なアプローチも必要です。

5. 業務委託から内製化へのシフトとその課題

現在、カード会社の多くが審査・債権管理・不正対応といった業務の一部、または全部を外部ベンダーに業務委託しています。しかし、AI技術の進展により、自社の判断基準や戦略に沿ったロジックの構築・運用がしやすくなっており、内製化への関心が高まりつつあります。

特に不正対応の分野では、スピードと柔軟性が求められるため、標準化しづらい業務ほど内製化による効果が大きいと考えられます。

もっとも、すぐにすべてを内製化するのは難しいため、まずは外部ベンダーと連携しつつAI導入を進め、社内に企画・開発・運用・監査の体制を整えていく段階的な移行が現実的です。

6. EUによる国際的な法規制と日本における対応

(1)EUのAIガバナンス(AI Act)

EU圏内に拠点がなくとも、グローバル展開を志向する企業にとってはAI Actの規制対象となる可能性があります。特に外部ベンダーにAI開発を委託するケースでも、開発者と提供者の両方に説明責任が求められる点は注意が必要です。

  • 成立: 2024年5月
  • 発効日: 2024年8月1日
  • 段階的な適用スケジュール:
    • 2025年2月2日:禁止AIに関する規制
    • 2025年8月2日:汎用目的AI(GPAI)への規制
    • 2026年8月2日:高リスクAIを含む一般規定の適用
    • 2027年8月2日:一部の高リスクAIに対する追加規制

なお、クレジットスコアリングは「高リスクAI」に分類され、バイアス対策や判断根拠の説明、人的監督、運用記録の保持などが求められます。

(2)日本におけるAIガバナンスの動き

EUのルールが国際標準となった場合、日本でも罰則付きの規制が導入される可能性があります。金融業界においては、透明性・説明責任・監査可能性の確保が今後さらに重要となるでしょう。

  • AI事業者ガイドライン(第1.0版): 2024年4月19日発表(総務省・経産省)
  • 第1.1版(最新版): 2025年5月8日公表
  • 現状: 努力義務ベースで罰則なし
  • 主なポイント: 説明責任、偏見排除など

7. AIは「道具」から「経営資源」へ

AIは、単に業務を効率化するためのツールではなく、企業の競争力や業務のあり方そのものに関わる「経営資源」として位置づけられる時代がやってきます。

クレジットカード業界では、審査・債権管理・不正利用対策といった基幹業務の質がそのまま顧客体験や信用リスクにつながるため、AIの活用はもはや経営戦略における最重要課題と言えるのではないでしょうか。

私たち双日テックイノベーションは、AIの業務活用における課題解決をご提案いたします。まずはお気軽にご相談ください。

本記事の内容は2025年6月時点のものであり、状況の変化により変更となる場合があります。