生成AIの導入は特別なことではなくなりました。資料作成、業務の効率化、アイデア出し──多くの企業が日常の業務にAIを取り入れ、一定の成果を感じています。
それでも、多くの経営者や現場マネージャーが口にするのは「AIを経営に活かしきれていない」という言葉です。
導入そのものは進んでも、AIの活用が業績や意思決定の質向上といった“経営成果”にまで結びついている企業はまだ少数派です。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査(2025年)によると、生成AIの効果を実感している企業は約7割にのぼるものの、その効果を定量的に把握できているのは全体の4割にとどまっています(※1)。さらにPwC Japanの国際比較では、生成AIを経営成果に結びつけている企業は日本でわずか17%。米国や中国では約半数が「経営への貢献を実感している」と回答しており、この差が世界との“AI格差”を物語っています(※2)。

つまり、AI導入の成功を分けているのはツールの性能ではなく、「AIを活かせる人と組織をどう育てるか」にあります。
AIをどう使いこなし、どう定着させ、どう成果につなげるのか──。
この「人と組織の成長プロセス」こそが、企業が持続的に成果を出し続けるための分岐点になっています。
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生成AIの活用で成果が挙がらない理由
多くの企業が生成AIを導入し、資料作成や業務効率化で手応えを感じ始めています。一方で、「思ったほど成果が出ない」「使う人が限られている」という声も少なくありません。なぜ、導入しても成果につながらないのか――。その背景には、いくつかの共通する構造的な課題があります。
1)数字が示す、AI活用の現実

最新の調査結果によると、AIを導入した企業のうち約6割が「期待通り、または期待以上の成果が得られた」と回答しています(※2)。一方で、「期待を下回った」「効果が見えない」企業も約4社に1社あり、導入後の成果には大きな開きがあります。
さらに、AIを実際に業務で使っている社員の割合を見ると、部署全体で活用している企業は約9%にとどまり、「一部の社員(20〜40%程度)」のみが使っている企業が最も多く27%を占めています(※2)。
つまり、多くの企業ではAIがまだ“全員の道具”になっていないのです。
この背景には、「AIを導入すれば自動的に効率化される」という誤解があります。実際には、AIは“人が使いこなす”ことで初めて力を発揮します。目的や活用ルールがあいまいなまま導入すると、使い方が個人任せになり、業務改善の効果が一部に偏ってしまうのです。AIを成果につなげるには、誰もが安心して使いこなせる環境づくり――すなわち“活用の土台”が欠かせません。
2)成功企業と停滞企業の決定的な違い

成果を出している企業に共通するのは、テクノロジーの性能よりも、「AIを活かす仕組み」を持っていることです。AI導入を単なるIT施策として終わらせず、組織全体の仕組みとして根づかせているのが特徴です。
たとえば、ある企業ではAI導入と同時に、全社員を対象としたリテラシー研修を実施。部門ごとに「AI活用テーマ」を設定し、営業では提案書の自動化、経理では経費処理の効率化を進めました。その結果、半年で業務効率が25%改善し、AIをチームで活用する文化が定着しました。
一方、停滞している企業では、「研修は行ったが現場で使われない」「管理職が活用を支援できていない」といった課題が多く見られます。AIは“教える”だけでは根づかず、“使って学ぶ”環境が必要なのです。
AIを導入した企業が次に直面するのは、「人がどう成長し、AIを使いこなせるようになるか」という課題です。ツールを入れるだけではなく、人材を育て、業務に定着させる。そこからが、本当の“AI活用のスタートライン”といえるでしょう。
AI人材の成長ステップと職種別の具体例
AIを導入しても成果が上がらない理由は、ツールの問題ではなく「人の育ち方」にあります。AIを使いこなせる人を増やし、組織全体に定着させていくこと。それが、真の“AI活用力”を高める唯一の方法です。
ここでは、AIを成果につなげるために必要な人材育成のステップを、実践的な事例とともに整理します。
1)AIスキル4段階モデル
AI人材を育てるうえで重要なのは、「理解」から「活用」へ、そして「変革」へと成長していくプロセスを明確にすることです。以下の4段階は、社員がどのようにAIスキルを身につけ、実践を通じて成果へと変えていくかを示したモデルです。自社が今どの段階にあるのかを把握し、次に進むための指針として活用してください。

Phase 1:リテラシー理解 ― AIを「知る」
まずはAIの仕組みや特徴、得意・不得意を知り、安心して試せる環境を整える段階です。
ChatGPTやCopilotなどを実際に触りながら、AIの可能性を自分の業務に重ねて考えられるようにします。
この段階では「AIを正しく怖がり、正しく使う」感覚を育てることが大切です。
Phase 2:業務実践 ― AIを「使う」
次に、日常業務にAIを取り入れて、時間削減や品質向上を体感する段階です。
たとえば、提案書や議事録の下書きをAIで作成し、人が最終調整を行うことで業務のスピードと精度を両立します。
「便利だから使う」から「成果が出るから使う」へと、社員の意識が変わり始めます。
Phase 3:内製化・展開 ― AIを「組み込む」
個人の活用をチーム単位に広げ、AIを業務フローの一部として組み込む段階です。
営業部では顧客データ分析、経理部では経費処理の自動分類など、部門ごとにAIを活用する仕組みを設計。
成果をKPIとして可視化し、成功事例を他部署にも展開することで“自走する文化”が生まれます。
Phase 4:変革推進 ― AIで「変える」
最終段階では、AIを業務改善の枠を超えて“事業変革”の中心に据えるフェーズです。
AIがデータをもとに意思決定を支援し、社員はより創造的な仕事に集中できるようになります。
経営層・現場・AIが一体となり、企業全体が新しい働き方へと進化していくのです。
2)AI人材育成における“3つの成功条件”

AI人材育成を成功に導く企業には、いくつかの共通点があります。それは、「現場に根づく教育」「チームでの共有」「成果の可視化」という3つの要素を同時に回していることです。
- ① 現場と結びつける:AI研修を座学で終わらせず、業務と直結させる。営業なら「提案資料作成を30%時短」、経理なら「入力作業を半減」といった具体的なゴールを設定します。
- ② チームで共有する:活用事例を個人のノウハウで止めず、チームで共有。成功事例や失敗事例をオープンにし、AI活用を文化として広げます。
- ③ 成果を見える化する:AI活用による時間削減・品質向上を数値で可視化し、評価制度に反映。結果が見えることで社員のモチベーションが継続します。
こうした仕組みが整うと、AIは単なるツールではなく、組織を前に進める原動力になります。 大切なのは、AIの使い方を教えることではなく、活用を通じて“自ら考え、成果を生み出せる人”を育てること。その積み重ねこそが、企業の持続的な成長と競争力を支えていくのです。
AI活用が社員の“意識”を変える
AIを導入したことで「業務が早くなった」「作業が減った」と感じる企業は多いですが、本当に成果を上げている企業では、さらに深い変化が起きています。それは、社員一人ひとりの意識の変化です。AIを単なるツールではなく“頼れるパートナー”として扱い始めたとき、組織は大きく動き始めます。
1)挑戦意欲+36%、時間的余裕を実感する社員90%

AIを活用している社員の約9割が「以前より時間に余裕ができた」と感じており、「新しいことに挑戦したい」と答えた人は36%増加しています。単純作業をAIが担うことで、人は“考える仕事”に時間を使えるようになり、業務の質とモチベーションがともに高まっているのです。
AIがもたらすのは“効率化”だけではありません。人がアイデアを出し、企画し、判断する――その「余白」を取り戻すことこそ、真の生産性向上といえます。
2)AIを“専門家”として扱うスキルの重要性
成果を分けるのは、AIをどう扱うかです。優れたユーザーほど、AIを“相談できる専門家”として捉えています。たとえば営業担当がAIに提案書の草案を依頼したり、マーケティング担当がAIと一緒にデータ分析の仮説を立てたり。人とAIが対話しながら仕事を進めることで、アイデアの質とスピードが飛躍的に上がります。
そのために欠かせないのが「質問力(プロンプトリテラシー)」です。AIに何を尋ね、どんな前提を与えるかで、得られる答えの精度が大きく変わります。単に“使う”ではなく“考えさせる”ことで、AIはチームの一員として価値を発揮します。
3)AIが“方針を伝える仕組み”になる
AIの定着が進むと、マネジメントのあり方にも変化が生まれます。上司の指示を待たずとも、AIが「次に取るべき行動」「過去の成功事例」などを提示してくれる。社員はそれを参考に自ら判断し、動けるようになります。AIは命令を下す存在ではなく、意思決定を支える“ナビゲーター”のような存在です。これにより、現場では“考えて動く文化”が広がり、組織全体の判断スピードが上がります。
AIが人の仕事を奪うのではなく、人がAIと共に進化する――。その意識が根づいた企業では、社員の主体性と創造力が自然と高まり、チーム全体の成果が加速度的に向上していきます。AIの導入はゴールではなく、“人が輝く働き方”へのスタートラインなのです。
AIで“人が輝く組織”をつくる
AIは、もはや一部の専門部署だけが扱う特別な技術ではありません。誰もが使えるようになった今こそ、企業に問われるのは「どう活かすか」「どう育てるか」です。
AIを導入しても思うような成果が出ない企業と、確実に変化を生み出している企業。その違いを生んでいるのは、テクノロジーではなく、“人がAIとどう向き合っているか”にあります。社員一人ひとりがAIを理解し、業務に活かし、チームとして成長できる環境を整えられるか――。そこが、組織の未来を分ける大きな分岐点です。
AI活用を成功させるには、「現場の課題と結びつける」「チームで共有する」「成果を見える化する」という3つのサイクルを回し続けることが欠かせません。この仕組みが動き出すと、AIは単なる効率化ツールではなく、社員の挑戦意欲を引き出し、組織全体を前進させる力になります。
AIを教えるだけでなく、実際に使い、成果を実感し、定着させる――。その繰り返しの中で、社員は「AIを使う人」から「AIで価値を生み出す人」へと成長していきます。
AIは人の代わりではなく、人の可能性を広げる存在です。うまく取り入れ、共に成長していくことで、社員も企業もこれまでにない価値を生み出せるようになります。未来は、AIではなく、それを活かす「人の力」によって形づくられていくのです。
そして、その未来を実現する第一歩が、AIを“人が輝ける仕組み”として育てていくこと。AIを通じて、人がより自由に、創造的に働ける組織づくりを始めていきましょう。
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参考出典
- (※1)日本情報システム・ユーザー協会『生成AI活用実態調査2025』
- (※2)PwC Japan『生成AIに関する実態調査 2025春』
