商社ERPトレンド紹介 第44回 『「人権・デューデリジェンス」って何? 人権DD義務化で変わる商社の実務』

2025年11月現在、日本の商社・卸売業界では、グローバルなサプライチェーン管理において、新たな対応が求められています。それが「人権デューデリジェンス(人権DD)」です。

2024年7月、EUで「企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)」が発効しました(※1)。

この指令は、EU域内外の一定規模以上の企業に対して、自社およびサプライチェーン全体における人権・環境リスクの特定、予防、是正を義務付けるものです。当初2027年から段階的に適用予定でしたが、2025年のオムニバス法案により2028年に延期され、さらに2025年11月には対象企業の基準を従業員5000人超に引き上げる簡素化案が欧州議会で採択されるなど、運用面での調整が進んでいます(※2)。

また、ドイツでは2023年から「サプライチェーン・デューデリジェンス法(LkSG)」が施行されており、従業員3000人以上の企業(2024年からは従業員1000人以上に拡大)に対して、人権・環境リスクへの対応が義務化されています(※3)。これらの法規制は、直接的には欧州企業が対象ですが、日本の商社がサプライチェーンの一員として取引する場合、間接的に影響を受けることになります。

三井物産は2025年3月期に人権DDの対象を拡大し、従来の食品原料・衣服・建材に加え、鉱業、石油・ガス、化学品、産業金属など幅広い業種へと取り組みを強化しています(※4)。また、三菱商事は2024年2月に人権方針を制定し、サプライチェーン全体での人権尊重の取り組みを明確化しました(※5)。このように、大手総合商社は既に動き出しています。

(※1)https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2025/49401891df8059e1.html

(※2)https://jp.reuters.com/world/us/MF366T6UCNL5JLODVPAZRY5YG4-2025-10-09/

(※3)https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/12/015b5a23d6d676ee.html

(※4)https://www.mitsui.com/jp/ja/sustainability/social/human_rights/index.html

(※5)https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/about/philosophy/human-rights-policy/

「人権デューデリジェンス」とは何か?

人権DD(デューデリジェンス)とは、企業が自社の事業活動やサプライチェーン全体において、人権に対する負の影響を特定し、予防・軽減するための継続的なプロセスのことです。具体的には、以下のような進め方で構成されます(※6)。

ステップ1:人権方針の策定・公表

ステップ2:負の影響の特定・評価

ステップ3:負の影響の防止・軽減

ステップ4:取り組みの実効性に関する評価

ステップ5:情報開示

ステップ6:救済手段

これらのステップを試行錯誤も含めて、最初から完璧を求めるのではなく、継続的に実施することで徐々に精度を上げていくことが重要です。

(※6)https://ddkyoukai.com/knowhow/human-rights-dd/420/

人権DD、商社が直面する実務上の課題とは?

商社にとって、人権DDの実施は決して簡単ではありません。課題は、「サプライチェーン上流までさかのぼった情報管理」です。

たとえば、衣料品を扱う商社の場合、最終製品を製造する縫製工場だけでなく、生地を供給する織物工場、さらには原料となる綿花の栽培農場に至るまで、サプライチェーンの各段階で人権リスクを把握する必要があります。しかし、多段階にわたる取引構造の中で、誰がどこでどのように働いているのかを正確に把握することは容易ではありません。

また、取引先が複数の国や地域にまたがる場合、各国の労働法制や人権基準の違いを理解し、適切に対応する必要があります。さらに、紙ベースやExcelでの管理が残る企業では、膨大な取引先情報を効率的に整理・更新することが困難です。

こうした状況では、EU当局や取引先から求められる報告に迅速に対応できず、ビジネス機会の喪失や取引停止といったリスクが生じる可能性があります。

そこで、人権DDを効果的に実施するためには、取引先情報を一元管理し、トレーサビリティを確保できるシステム基盤が不可欠です。

人権DDで商社が直面する課題を解決するのは「システム基盤力」

それでは、商社が対応すべき「システム基盤力」のための具体的な機能をお伝えします。

「取引先データベースの構築(サプライヤーごと、労働環境、監査結果など)」「トレーサビリティ(追跡できること)」「アラート(人権リスクが検出された際に自動検知と対応)」「レポーティング(情報開示義務の効率化)」

これらの機能を個別のシステムで実現しようとすると、データの分断が生じ、かえって業務が煩雑化します。重要なのは、受発注管理、在庫管理、財務管理といった基幹業務と、人権DDに関する情報を統合的に管理できるERPシステムを導入することです。

人権DDへの取り組みに必要なのが、統合データ管理のERP

人権DDへの取り組みは単なる法令遵守にとどまらず、サプライチェーンの透明性を高めることで、取引先や投資家からの信頼を獲得し、持続可能なビジネスモデルを構築するチャンスでもあります。

実際、欧州の大手企業では、人権DDに真摯に取り組むサプライヤーを優先的に選定する動きが広がっています。人権DDへの対応が遅れれば、グローバル市場での競争力を失うリスクがある一方、先手を打って体制を整えることで、新たなビジネス機会を獲得することも可能ではないでしょうか。

このコラムを掲載している双日テックイノベーションは、IT技術で企業の課題を解消していく「専門家」です。特にGRANDITやクラウドERPをご検討の商社やIT系の企業の皆様で、業務や基幹システムに関しての課題や興味がある方には、以下のページをご覧いただきたいです。

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