ERPシステムを中心としたAI導入によるDX推進について~ERP/MESに蓄積されたデータとDX人材がAI活用によるDX成功のポイント~

ERP再生計画第56回「ERP再生計画の策定:2025年の崖から更にその先へ、ERPのロードマップを考える~戦略編3 :10年先を見据えた3ステップのERPリニューアル構想~」

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第89回「ERPシステムを中心としたAI導入によるDX推進について~ERP/MESに蓄積されたデータとDX人材がAI活用によるDX成功のポイント~」をご紹介します。

□はじめに

 生成AIブームは今年2026年も続くと思われますが、その中でも「AIエージェント」と「フィジカルAI」について、今後特に留意する必要があります。

「AIエージェント」とは、“指示されたことだけではなく、状況を判断してタスクを実行するAI”だと言われています。これまでのAIは、人間が指示することに回答する、検索・調査するだけでしたが、AIエージェントは「具体的な目的や目標を指示されるとこれを達成するために必要な手順をAI自身が考えて自律的に行動」してくれます。つまり、1つ1つ具体的な指示なしで、複数のタスクをこなして答えにたどり着きます。例えば、「最新の製品在庫数量をERPからダウンロードして、Excelファイルでまとめて、これをメールに添付して問い合わせのあった得意先にメールする」と口頭で指示すれば、AIエージェントがその通りに対応してくれます。

「フィジカルAI」とは、AIの頭脳で判断して、物理的にロボットや設備・機器・ロボットなどを物理的に動かすAI技術です。これまでのロボットは、「決められた動作や作業を繰り返す」ことが得意でしたが、フィジカルAIでは、「周囲の状況を判断して、臨機応変に動作する」ことが出来ます。IoTのセンサーやカメラが、ロボットや設備の目や感覚器となって、そのデータをAIが認知してロボットや設備に次の動作をフィードバックします。

 このように、AI技術はさらに進化して我々の仕事に組み込まれていきます。ERPシステムなど基幹系システムや、社内や工場にある大量のドキュメント、設備やロボットに搭載されているカメラやセンサーなどデータの価値が高まるとともに、人間の役割が大きく変わることになります。今回はERP再生と最新AI技術から、DX人材の育成について考察します。

■DX人材に求められる生成AIに関するスキルとは

 生成AI導入が、ホワイトカラーの人員整理を加速しています。法律事務所、コンサルティング会社、銀行や保険、金融サービスといった高度なプロフェッショナルサービスを提供している企業で大規模な人員削減、人員の入れ替えが行われています。これまでも、定期的な人員の入れ替えは行われてきましたが、その規模が全従業員の1割以上という状況です。アマゾンでは、1万4000人の人員削減、コンサルティングのアクセンチュアは1万1000人、マッキンゼーは全従業員の1割に相当する数千人が削減されています。これと並行して全ての社員にAI学習を義務付けるとともにAI人材採用を加速拡大しています。アクセンチュアでは、既に3万人以上にAIのトレーニングを行い、随時その数を拡大しています。

今後も、こうしたAIによる人材削減はさらに加速すると考えられています。そして、次の削減対象は当然IT産業にも及んでいます。ちなみに、アクセンチュアでは仕事の3〜4割程度を占めるリサーチや資料作成などは生成AIに任せて、浮いた時間を付加価値の高い戦略的思考や顧客との課題解決に振り向けています。つまり、AI技術によって作業時間のムダを省いて、AIやシステムなどで自動化をしています。空いた時間を活用して、人間でしかできない戦略思考や顧客との対話に使います。

 ERPシステムやMES(製造実行システム)など、IoTセンサーやカメラなど各種データ、膨大な紙やExcel、PDFなどのドキュメント類も生成AIで一気に読み込んで直ぐに使えるデジタルデータとして活用する仕組みが先行する企業で整いつつあります。特にIT業界では、今後大規模なアプリケーションやプラットフォーム構築もAI技術で少人数開発出来るようになるでしょう。NTTデータグループは、2026年中にITシステム開発をほぼ生成AIが担う技術を導入すると報道がありました。また、Replit社は自然言語でアプリ開発を行う開発環境を提供しています。「こういうアプリを作って」と指示するだけで、環境構築からコード記述、デプロイ(公開)までを自律的に行うことが出来ます。プログラミング知識がない人でも、数分で実際に動くウェブアプリケーションを作成可能とします。このように、最新のAI技術は確実にプロフェッショナルサービスの業務を大きく変革することになります。これまでのIT部門の業務や、ちょっとしたシステム開発などは全てAIで出来ることになります。つまるところ、今後求められるDX人材は「専門性の高い業務スキルを持っていて更にAIが使えること」を前提としています。これは、「DX人材レベル2、専門知識&スキル+AI活用できる人材」となります。ここで課題となるのはITスキルではなく専門性の高い業務知識となります。

(図表1、DXの取組みのテーマ、全体像)

■DX人材に求められるスキルと知識は急激に難易度が高まっている

 DX推進に求められるのは、ITスキルと専門知識となります。

企業DXを阻む要因のひとつが、DX人材の不足だと言われています。企業の事業戦略実現を阻害する最大の課題があらゆる場面で人手不足となっていることです。いずれも企業の成長を促すデジタル人材とその頭数が物理的に足りないということになります。

一応、IPA情報処理推進機構と経済産業省からDX推進スキル標準(DSS-P)が策定されています。また、生成AIに関するDX推進スキル標準の改定が2024年7月に行われていて、生成AIの特性を生かしたDXスキル標準が策定されています。つまり、DX推進に生成AI技術は必須だと言えます。

(図表2、DX推進スキル標準(DSS-P)概要)
(図表3、生成AIに関するDX推進スキル標準の改訂 要旨、2024年7月)

 筆者は現在IT領域(ERP)とOT領域(MES)の両方に跨る領域でお仕事していますが、最近IT系のコンサルやシステム技術者がOT系やエンジニアリング領域に進出しているケースをよく見かけます。現時点では、製造業の工場業務やエンジニアリング、研究開発など専門性の高い領域はIT技術だけでは簡単に突破できません。しかし、AI技術や時間を掛けて知識と経験を習得すれば、いずれ追いつくと思われます。こうした専門性の高いOT系知識やノウハウを習得する阻害要因として考えられるのは、まずは属人化です。日本企業の業務は、システム化、デジタル化が遅れています。その最大の理由は業務の標準化が全くできていないことです。日本企業の最大の弱点は属人化にあります。業務が属人化しているため、AI活用に必要なデータを揃えることが出来ず、これが足枷となることが予想されます。つまり、勝ち筋は業務の標準化を一気に進めることと専門性の高いDX人材を可能な限り拡充することです。DX人材の拡充が出来ない場合、競合他社との競争に勝つのは難しくなると考えられます。

AIエージェントを最大限生かすためには、ERPシステムやMESシステムに蓄積されたデータや、IoTのセンサーデータやカメラからの画像データを活用することになります。従って、業務標準化とERPシステムやMESシステムなどの導入は大前提となります。業務が属人化したままで、ERPやMESが無い場合はその時点でAIエージェントによる効果が半減すると考えられます。まずはAIを生かすためのデータインフラの構築が最初のステップとなります。

(図表4、生成AIに対するアクション:基本的な考え方)

さて、今回よりAIについての説明とDX推進のお話となります。AI技術は、ITスキルが高く無くても自然言語で利用することが出来ます。しかし、AIを最大限生かすためには、ERPシステムを中心とした基幹系システムのデータインフラが必要となります。また、IT系のデータだけではなく、OT系のデータも合わせて利用することでその効果を高めることが出来ます。その阻害要因は、属人化と紙・Excelなどデジタル化されていないデータにあります。
次回は、事例からその詳細について紹介します。