ERPとMES/IoTのデータを活用したエージェントAI先行事例 ~製造業はERP(IT)とMES/IoT(OT)をエージェントAIで活用するポイント~

ERP再生計画第56回「ERP再生計画の策定:2025年の崖から更にその先へ、ERPのロードマップを考える~戦略編3 :10年先を見据えた3ステップのERPリニューアル構想~」

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第90回「ERPとMES/IoTのデータを活用したエージェントAI先行事例~製造業はERP(IT)とMES/IoT(OT)をエージェントAIで活用するポイント~」をご紹介します。

はじめに

 IT業界のみならず産業界全体がAIに集中投資して、これがAIバブルという言葉を生む理由になっていますが、実際に生成AIは仕事でもプライベートでも便利なツールであることは間違いありません。既に仕事で、個人で、OpenAI社のChatGPTやGoogle社のGeminiなどを利用している人も多いことと思います。生成AIの活用場面は、情報の詳細検索からそのサマリー作成、調べた内容から作文やレポート作成、画像や動画などコンテンツ制作など多岐にわたる活用が可能です。生成AIを使った検索は、従来のネット検索よりも検索結果を分かりやすくまとめてくれるという面からもとても便利で内容も分かりやすく丁寧なのですが、ときどき間違った情報や偽情報から作成された架空情報(フェイク)が紛れ込んで問題にもなっています。いずれにしても、IT業界ではAI導入はすでに必須ですし、あらゆる産業や業務で今後さらに導入活用されることは確実です。一部企業や組織(大学など学術系)で、生成AIの利用を禁止するケースもありますが、これは業界や競合から取り残されるリスクがあるため、産業界においては、経営層を含む全社員を対象に正しく利用する知識とスキルを身に付ける必要があります。前回は、AI技術動向について紹介しましたが、今回は製造業におけるエージェントAIについて、そのトレンドと先行事例についてご紹介したいと思います。

生成AI、エージェントAI、フィジカルAIが変革する産業構造と働き方の転換点

 日本の製造業は、間違いなく、いま大きな転換点に立っています。年々厳しくなる人手不足、熟練技術者の引退による技術継承の問題、中国市場の凋落とアジア新興国やインドの急成長、欧州を中心としたCO2排出削減やサーキュラーエコノミーなどの環境規制、トランプ大統領による貿易関税などの問題が山積しています。その中でも、日本のものづくりの価値が揺らぐ要因のひとつとしてデジタルとAI導入の問題があります。日本のものづくりの強みは、熟練技術者のノウハウといった暗黙知と、この技能継承にあります。人から人へ受け継がれていく技術継承の課題が、継承する技術者の育成に掛かる時間と伝承する技術の形式知化にあります。デジタル化は、この技術継承の手段として期待されていましたが、属人化しているノウハウを標準化、形式知化するのは簡単ではありません。こうした状況においてその光明となっているのが、AIによる設備の故障や不良を未然に防ぐ予知保全や異常検知です。そのAIブームは、「生成AIによる報告書作成」や「データに基づいたAI予測による故障予知」などでした。この取り組みをさらに進めたのが、具体的な目標を設定することで、AIが自律的に解決手段を考えて、複数のシステムや各種データ(構造化データ、非構造化データ、IoTデータやドキュメント類など)からAI判断で複数システムを跨る一連のアクションを自律的に遂行するエージェントAIです。

<製造業におけるエージェントAIの参考例>

・生成AIからエージェントAIへ

 生成AIでは、製造現場のデータから「生産設備のベアリング摩耗による故障予知アラート」がチャットボットやメールなどで報告されますが、エージェントAIでは、次のようなマルチタスクで「自律的な判断と実行」が行われます。

【参考イメージ】

①DCS(Distributed Control System:分散型制御システム)の振動波形からベアリングの異常を検知→②ERPの在庫データを確認して交換部品の在庫がないことを確認→③自動的にサプライヤーに発注指示を出して最短の配送日を確認→④MES上の生産計画を修正して部品到着までの間、負荷の低い別ラインへ生産をシフト→⑤これら一連の処置を完了した上で、人間に「完了報告と最終承認」を求める。

このように、AIが製造業のオペレーションを自律的に選択・判断して目的に至る行動を起こします。

図表1、AI技術による業務の自律化:生成AIからエージェントAI
(図表1、AI技術による業務の自律化:生成AIからエージェントAI)

■ERP(IT)とMES/IoT(OT)のデータを活用したエージェントAI先行事例について

 生成AI導入が、ホワイトカラーの人員整理を加速しています。法律事務所、コンサルティング会社、銀行や保険、金融サービスといった高度なプロフェッショナルサービスを提供している企業では大規模な人員削減、人員の入れ替えが行われています。これまでも、定期的な人員の入れ替えは行われてきましたが、その規模が全従業員の1割以上という状況です。

 製造業におけるAI導入と活用は、今後益々増えて行くと思われますが、アマゾンやアクセンチュアなどサービス業以上に産業構造や働き方に大きな変化を与えることが予想されます。AI技術をどのように導入、活用すればよいのかという質問を受けることが日々増えています。エージェントAIについては、営業系やマーケティング活動、お客様サポート、コールセンターなどの導入が増えていますが、製造業については、まだ事例も少なくこれから相談やユースケースが増えると思われます。大手製造業におけるエージェントAIの先行事例は、次のようなものがあげられます。

【海外事例】

事例1:BMWの「iFACTORY」

BMWは、NVIDIAのデジタルツイン基盤上で、工場の全物理データと経営データを同期させています。AIエージェントがデジタルツイン上で数万通りの生産シナリオをシミュレーションし、最も電力効率が良く、かつ納期を遵守できる設定を自ら選択します。その設定値を直接DCS(分散制御システム)に書き込むことで、設備機器の稼働を効率化して工場のエネルギー効率を前年比で20%以上改善させることに成功しています。

出所:YouTube BMW Groupチャンネル 

BMW iFACTORY – explore how digital drives the production of tomorrow

https://www.youtube.com/watch?v=K3t0RTxvcK8 (字幕を日本語自動翻訳に設定)

事例2:シーメンスの「Industrial Copilot」

シーメンスは、PLCの制御コード生成にAIエージェントを導入しています。エンジニアが自然言語で「この搬送ロボットの動きを最適化して」と指示するだけで、AIがERPの生産目標(IT)に合致する最適な制御プログラム(OT)を生成・検証して、即座に現場へ適用します。

出所:Siemens Engineering Copilot for TIA Portal automates PLC code and HMI setup

https://www.youtube.com/watch?v=ewTAtMvDp10 (字幕を日本語自動翻訳に設定)

参考記事:ITメディア MONOist 2025年7月25日記事

https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2507/25/news001.html

【国内事例】

事例3:横河電機×JSR、横河電機×サウジアラムコ:

横河電機とJSRは、AIが35日間連続でプラントを自律制御した世界初の自律制御に成功しています。事例をベースに、2025年以降は「収益性」を判断基準に加えたエージェントAIを実装して、ERPから「原材料価格」や「電力デマンドレスポンス情報」を取得。エージェントAIがDCSに対して、品質を維持しつつ最も利益が出る運転パラメーターを自律的に指示します。

横河電機は、サウジアラムコのファディリ・ガスプラントに、産業用のAIソリューションとして相互に連携する複数の自律制御AIを導入し、業務効率を向上しています。

参考:日経XTECH、強化学習AIで化学プラントを35日間自律制御、横河電機とJSR

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/12500

参考:PR NEWS、サウジアラムコと横河電機が大規模ガス製造プラントに相互に連携する複数の自律制御AIを導入 

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000160352.html

事例4:トヨタ自動車 社内向けAIエージェントシステム(O-Beyaシステム):

 トヨタ自動車では、熟練エンジニアの知見を学習した「生成AIエージェント」が、開発から製造準備までのリードタイムを短縮する支援を行う取り組みが進められています。

 【加工・組立産業】ERPとMESを跨ぐ「自律的リスケジューリング」

受注変動や部品欠品が激しい組立現場では、ERPの納期情報とMESの進捗情報をエージェントAIが監視し、現場に指示を出す仕組みが主流になりつつあります。例えば、エンジン設計などに関する質問を入力すると、過去の設計書や最新の法規情報を横断的に検索し、即座に回答されます。O-Beyaには振動や燃費、規制など9つの専門AIエージェントが搭載されており、質問内容に応じて協調し、統合した回答が提供されます。これまでは、複雑な問題は熟練技術者に個別に問い合わせる必要がありましたが、それが包括的な回答を一度で得られるようになり、開発効率や技術力の向上につながっています。状況に即して設計データと工場の設備稼働状況(MES)を突き合わせ、設計変更が現場のライン構成に与える影響をAIが即座にシミュレーションし、最適な生産準備工程が自動生成されます。

図表2、トヨタとマイクロソフトが生成AI「O-Beya」構築 
(図表2、トヨタとマイクロソフトが生成AI「O-Beya」構築 )

さて、今回は生成AIの次の段階に入ったエージェントAIについての説明とこれから導入が進むと言われている製造業におけるエージェントAI導入についてご紹介しました。指示されたコンテンツ生成を行う生成AIから、目的を示すとその結果を出す判断を自律的に行うエージェントAIでは、その生産性や得られる結果が大きく異なります。そして、次回は、エージェントAIに物理的に設備やロボットなどが繋がったフィジカルAIについてお話します。