
こんにちは、穂苅智哉と申します。
「デジタルツイン」とは、現実世界から収集したさまざまなデータを、まるで双子であるかのようにコンピュータ上で再現することをいいます。再現し、シミュレーションをバーチャル空間で実施した後に現実にフィードバックすることで、効果の高いアクションを現実で実施できるというものです。
これは、商社や卸業界でも同じことが言えます。これまで製造業の工場管理等で活用されてきたデジタルツインの考え方を、商社のグローバルサプライチェーン管理に適用することで、新しい事業運営が可能になりつつあります。
特に2024年から続く紅海問題、急激な円安進行、そして物流業界の2024年問題など、私たちを取り巻く環境が激変する中、「現実世界の双子」をデジタル空間に構築し、様々なシナリオを事前にシミュレーションできるデジタルツインへの期待は高まる一方です。そして、この技術を支える基盤として、ERPシステムの役割がこれまで以上に重要になってきています。
商社におけるデジタルツインの適用領域
製造業のデジタルツインが工場内の設備や製造ラインを対象とするのに対し、商社業務でのデジタルツインは、更に複雑で動的なシステムを扱うことになります。その対象は「グローバルに広がるサプライチェーン全体」です。
例えば、ブラジルの大豆畑から日本の港まで、調達・輸送・在庫・販売という一連の商流・物流・金流(いわゆるバリューチェーン)を、リアルタイムのデータに基づいてデジタル空間に再現します。各地点での在庫量、品質状態、輸送状況はもちろん、為替レートの変動、天候リスク、地政学的要因まで含めて、現実世界の「双子」を構築するのです。
このデジタル空間では、「もし紅海経由の輸送ルートが使えなくなったら、喜望峰経由に変更した場合のコスト増加と納期遅延はどの程度か?」「円安が更に10円進んだ場合、既存契約の収益性はどう変化するか?」といった複雑なシナリオを、実際にリスクが顕在化する前にシミュレーションできます。
データ統合基盤としてのERPの重要性
しかし、このような高度なデジタルツインを実現するには、膨大で多様なデータを統合・管理できる強固な基盤が不可欠です。商社が扱うデータは、社内の取引データや在庫情報だけではありません。
例えば、IoTセンサーからのコンテナの位置・温度・湿度情報、各国の市場価格や為替レート、船舶・航空機の運行状況、港湾の混雑度、さらには台風や干ばつといった気象データ、関税変更や規制改正などの政治・経済情報まで、実に多岐にわたります。これらの内部データと外部データを統合し、リアルタイムで更新し続けることができるERPシステムが、デジタルツイン実現の土台となります。
従来のERPが「過去と現在の記録」を管理するシステムだったとすれば、デジタルツイン時代のERPは「未来の予測と最適化」を支援するプラットフォームへの進化です。単なる業務効率化ツールから、戦略的意思決定を支援するビジネスインテリジェンス基盤への転換です。
商社特有の課題への対応力
商社業務には、独特の複雑さがまだまだあります。それが多拠点・多通貨・多言語での同時並行的な取引、複雑な貿易実務、為替リスクの管理、そして何より「属人化しやすい業務プロセス」の標準化です。
デジタルツイン技術の活用により、ベテラン担当者の暗黙知を可視化し、「なぜその判断をしたのか」をデータとロジックで再現できるようになると、経験豊富な社員の退職とともに失われがちだった貴重なノウハウを、組織の知的資産として蓄積・継承することが可能になります。
また、商社特有の案件管理においても、デジタルツインの威力は発揮されます。複数の案件が同時進行する中で、リソース配分の最適化、リスクの早期発見、収益機会の最大化を、データに基づいて科学的に行うことができるようになるのです。
このような時代に適したERPを選択する際には「データ統合力」と「商社業務への理解度」が必要です。ERPとつなぐ様々なシステムとの連携が容易であること、メンテナンスがしやすいこと、リアルタイムで情報が更新されること、予測やシミュレーションができることなどが大事です。更には商社・卸業特有の業務プロセスや商習慣、法的ポイントを理解したうえで運用できることが重要となります。
まだまだ、今回お伝えしてきた内容をすべて完全に対応できるシステムや運用はまだ難しい面もありますが、今後の方向性としてはAIを最大限活用したデジタルツインの動きは十分考えられます。つまり、先を見据えて今から準備をしておくことが大事ということになります。
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