すべての企業に重要で、とりわけ商社や卸業で必須なのが「リスクマネジメント」です。大手商社でもこの考え方に基づいた取り組みが次々と行われており、競争力の強化を図っている状況です。
また、日本のリスク管理市場全体も急成長しており、 IMARC Group「日本のリスク管理市場レポート」(※1)によると、2024年に7億9700万米ドルに達し、2025年から2033年にかけて年平均成長率(CAGR)13.5%で成長し、2033年までに大幅な拡大が予測されています。
このようなリスク管理への注目が高まる中で、商社の経営陣や担当者が頻繁に耳にするのが「VaR」という用語です。「今期のVaRは○○億円です」「VaR管理を強化します」といった発言を聞いたことがある方もいると思います。
しかし、その正確な意味や計算方法について、明確に理解している方は意外と少ないのが現実です。今回は、商社のリスク管理で必須となるVaRの基本を分かりやすく解説します。
(※1)https://www.imarcgroup.com/report/ja/japan-risk-management-market
VaRとは?
VaRは、Value at Riskの略で、直訳すると「リスクに晒されている価値」という意味になります。
もう少し具体性を上げると、「一定期間内に、一定の確率で発生しうる最大損失額」を表すリスク管理指標がVaRです。
企業は事業活動を行う上では常に様々なリスクにさらされています。その中には、経営リスク、戦略リスク、金融リスク、環境リスクなど多種多様です。そんな中でも、リスクについては見える状態になっていることがとても重要で、これは見えることで方針決めや対策が打てるようになるからです。そのため、VaRは企業経営において非常に重要な指標であると言えます。
具体的な例で紹介します。
ある資産があるとして、「信頼度95%、期間1日でのVaRが500万円」という表現をします。この意味は、「95%の確率で、1日の損失は500万円以内に収まる」ということです。つまり裏返すと「5%の確率で、1日で500万円を超える損失が発生する可能性がある」とも言えます。
ここまで見えていれば、リスク量として問題があるかどうかの判断ができますし、問題ありと判断された場合でも資産構成の見直しや自己資本の増強などのリスク低減の打ち手を出すことができるというわけです。
つまり、まとめると以下のようになります。
- VaRが重要な理由:従来のリスク管理の問題であった「最大でいくら損をするのか分からない」という状態をなくすため
- メリット1:損失の見える化
- 抽象的だったリスクを金額で表せるように
- 経営陣への報告が具体的に
- 部門間でのリスク比較ができるように
- メリット2:予算管理との連携
- リスク許容度に基づく事業計画の策定
- 資本配分の最適化
- 損失準備金の適切な設定
商社でのVaRシミュレーション
それでは、よりイメージを付けられるように、商社業務におけるVaR活用のシミュレーションをしてみたいと思います。
為替リスクをVaRで見える化していきます。
- 前提条件
- 保有する外貨ポジションは、1億米ドル
- 過去のドル円レート変動データを基に計算
- 信頼度95%、期間は1日とする
- 計算結果(今回は仮想的な数値として)
- VaRは、800万円
- 実務での活用
- 95%の確率で、1日の為替による損失は800万円以下となる
- 5%の確率で、800万円を超える損失の可能性
- この情報を基に、ヘッジ取引の必要性を判断する
ちなみに、VaRの計算を行うためには3つの手法があります。詳細は割愛しますが手法についてはこちらです。
- ヒストリカル法
- 過去の実際の価格変動データを使用することで、現実的な数値を出せるもの。一方で過去にない変動パターンは予測が難しい。
- パラメトリック法(分散共分散法)
- 統計的な正規分布モデルを使用することで、計算が早く論理的に整合性がある数値を出せる。一方で、極端な変動を過小評価する可能性がある。
- モンテカルロ・シミュレーション法
- コンピュータによる大量のシミュレーションによって数値を出すため、複雑なポートフォリオにも対応可能な手法。一方で計算コストが高く時間がかかるという点もある。
VaRという必須の指標を使いこなすためには、統合データ管理のERP
「VaR(Value at Risk)」は、商社のリスク管理において今や必須の指標となっています。単に「リスクがある」ではなく、「95%の確率で1日の損失は○○円以下」という具体的な数値でリスクを表現できることが、VaRの最大の価値です。
企業におけるリスク管理の重要性はますます高まっています。しかし、VaRを効果的に活用するためには、手作業での計算から脱却し、リアルタイムでの統合管理が可能なシステム基盤が不可欠です。
商社特有の複雑な取引形態(多通貨、多商品、多地域)に対応し、VaRをはじめとする高度なリスク指標を自動計算・監視できるERPシステムの導入こそが、変動激しい市場環境で競争優位性を維持する現実的なソリューションと言えるでしょう。
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