2025年問題とDX推進をERP再生/サプライチェーン強靭化から考察する

ERP再生計画第56回「ERP再生計画の策定:2025年の崖から更にその先へ、ERPのロードマップを考える~戦略編3 :10年先を見据えた3ステップのERPリニューアル構想~」

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第83回「2025年問題とDX推進をERP再生/サプライチェーン強靭化から考察する~2025年問題とDX戦略をERP/SCMで乗り越える処方箋、その1ロードマップ策定~」をご紹介します。

多くの企業で4月から組織変更が行われたり、6月の株主総会で社長や役員などの経営陣が刷新されたり、企業の組織体制や経営方針が変化するときを迎えています。トランプ大統領の相互関税や、世界各地で勃発している分断と対立、そして紛争や戦争など世界の先行きは不透明さを増していますが、企業は生き残るために前に進んでいかなければなりません。

日本経済の『失われた30年』という言葉を、メディアや講演会で聞く度にふっと違和感を覚えます。それというのも、この30年間をビジネスマンとして振り返れば、失ったものなど無くビジネスが停滞していた気がしないからです。それなりに結果も出しました。

そこで、この30年間を振り返りつつ経済産業省が2018年に公開した「DXレポート」が示す「2025年問題とDX推進」をレガシー化しているERPシステム再生とサプライチェーン強靭化というテーマを絡めて、事例紹介やアクションプラン策定まで通常コンサルティングでお客様向けに説明している内容を1つ1つ紐解いて考察していきたいと思います。ひと通り読めば、誰でもERP/SCM刷新とDX推進が出来ればいいと考えました。

※出所:経済産業省 DXレポート 2018年9月7日 DXレポート
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

□はじめに

『失われた30年』と気軽にニュースキャスターや政治家は言うのですが、具体的に何が失われたのでしょうか?

●質問1)30年間賃金が増えていない?
 →取締役の報酬は増加。【すごく増えている!】

●1億円以上報酬を貰っている上場企業の役員は343社・859人。
 →従業員の平均年収は減少している?【やっぱり減っている!!】

1994年のサラリーマン平均年収は約486万円(当時のレートで4万8,900ドル)、2025年の平均年収は約445万円(現在のレートで3万700ドル)です。円ベースでは8.5%減少して、ドルベースだと約3分の2(マイナス33%)に目減りしています。
さらに、30年分の物価上昇を考えるとドルベースで年収は半分程度に減っていると考えて良いでしょう。確かに海外旅行が高すぎて、ヨーロッパやアメリカに行く気がしない、ハワイもムリ。
台湾、韓国、アジア諸国ならなんとか行けそう。個人には、やはり厳しい現実です。

しかし、企業の業績は30年間それなりに成長しています。例えば国内最大企業のトヨタ自動車を例にすると、1994年の売上高10.5兆円(売上高約1054憶ドル、当時為替レート:1ドル=99.6円)と時価総額約54.4兆円(時価総額約542憶ドル)で、2025年の売上高48兆367億円(売上高約3313億ドル、為替レート:1ドル=145円)と時価総額約2979億43.2兆円(時価総額約2979億ドル)となります。

 ■ 売上高              1994売上1054憶ドル→2025売上高3313憶ドル ⇒3.14倍成長
 ■ 時価総額          1994時価総額542憶ドル→2025時価総額2979ドル ⇒5.50倍成長

つまり、30年間で売上高は3倍以上、時価総額は5.5倍以上成長しています。しかし、2025年6月末時点の時価総額ランキング1位はエヌビディア社38,600億ドル、2位はマイクロソフト社36,900億ドル、3位アップル社31,000億ドルです。

  • エヌビディア社は1994年設立なので1994年ランキングには登場しません
  • マイクロソフト社は、585憶ドルから36,900憶ドルへ63倍の成長
  • アップル社は、1994年売上高30億ドルから31,000億ドルへ1,000倍以上の成長

つまり、際立っているのは成長力だと言えます。これを踏まえて、「2025年の崖」を飛び越えるために企業は何から始めれば良いのか、またその中心となるERP/SCMがDX戦略においてなぜ重要なのか紐解いていきます。

(図表1、1994年世界時価総額ランキングと2025年6月末世界時価総額ランキング比較)

■ロードマップ策定

まずはじめるのは「①現状分析」からです。調べる対象を、次のようにいくつか絞ります。

  • 売れている商品と儲かる事業。(次の新製品を出す計画はあるのか)
  • 同じ業界で儲かっている企業とその理由。(業界の半分以上が儲からないのは危ない)
  • 現状のままでいつまで我慢できるのか(売上と利益の成長が止まるのが限界点)
  • 基幹システムの大規模改修やシステム刷新の計画はあるか。(10年以上放置は危ない)
  • IT人材、デジタル組織は人員増加しているか。(IT人材減少、ベンダ丸投げはヤバい)

これだけで、現状が大体イメージできます。

次にやるのは「②基幹システムの分析」です。5つの視点でざっと分析把握します。

  • 技術的健全性:アーキテクチャ、使用言語・基盤・ミドルウェア、セキュリティ対策
  • ビジネス適合性:業務要件への対応力、拡張性、カスタマイズの容易さ
  • コスト効率:運用・保守コスト、ライセンス費用/月額使用料、技術者保有コスト
  • リスク評価:障害発生リスク、セキュリティリスク、ベンダ依存度
  • 保守容易性:障害対応力、内製化率(ベンダ依存度の裏返し)、保守期限、代替手段

以上5つの視点から現行システムを刷新する必要があるかを判断します。

総合スコアが60点未満、またはいずれかの項目が30点未満の場合は、システム刷新をするべきだと考えられます。問題の先送りは、更なるリスクを招き寄せることに繋がります。

(図表2、基幹システムの現状分析)

■課題の整理とリスク評価

基幹システムの現状分析について、課題の整理とリスク評価を行います。これは、3つの課題分類でリスク影響度マトリックスをつくります。これが、システム刷新を判断する重要なとりまとめ資料となります。

【技術面の課題】

  • レガシーシステムの老朽化、レガシーERP/オフコン/開発言語
  • ベンダーロックイン、代替ベンダの有無、内製化

【人材面の課題】

  • 技術継承の断絶、保守・運用知識の属人化・退職リスト
  • デジタル人材の不足、新技術対応人材の確保困難、データ活用・開発基盤/AI活用

【ビジネス面の課題】

  • システム改修に時間・コストが掛かり迅速な対応が困難
  • 市場環境・法改正への迅速な対応が困難、パッケージによる自動更新対応の可否

以上よりリスク影響度マトリックスを作成して、現状維持かシステム刷新の判断をします。

(図表3、課題の整理とリスク評価)

基幹システム刷新を選択した場合、次に基本方針と対策を調査して基幹システム刷新の準備を行います。そのポイントは主に5つあります。

・クラウド基盤への移行:

 →柔軟なスケジューリング、運用負荷軽減、セキュリティ強化

・API・データ連携基盤の整備:

 →疎結合アーキテクチャによる柔軟性の確保と外部連携の容易性

※現在は蜜結合のスイート型統合システムではなく、安定性と柔軟性を兼ね備えた複数システムを跨る疎結合連携システムが求められます。

・マイクロサービス化:

 →機能単位の独立したサービス構成による変更容易性の向上

・段階的移行戦略:

 →ビッグバン移行ではなく、帰納・業務単位での段階的刷新

・外部パートナーの戦略的活用

 →専門性の高い分野はパートナー連携で迅速に対応

この5つのポイントは、この先5年、10年先を見据えた新しいITテクノロジーとその導入です。レガシー化した基幹システム(老朽化したオフコンやERP/SCMなど)は、柔軟性と拡張性に乏しく、システム維持コストや維持する要員(リソースやベンダ)の確保が難しいと予想されます。また、刷新したERPやSCM、MES/MOM、IoT/ドキュメント管理/画像管理システムのデータを最新の生成AI技術で解析するためにデータ品質とデータ量のボリュームを揃えることと、システム間相互連携(欧州のデータスペースとの連携など)を織り込む必要があります。マスタ統合やデータレイクハウス構築から、経営ダッシュボードと工場ダッシュボードの構築につながります。

(図表4,期間システム刷新の基本方針と対策)

 トランプ関税の影響が顕在化してきています。世界は分断と対立から、インフレと景気悪化へ一直線に進んでいます。つまり何を言いたいかというと、ビジネス変化のスピードが加速して不確実性が増していて、こういう時に必要なのは正確な情報とその分析能力、そして変化に即応できるリアルタイム基幹システムによる即応性です。今回は、まず現状分析から基幹システム刷新に至るロードマップの進め方を紹介しました。実際のコンサルティングでは、現状分析フェーズからはじめて、お客様インタビューと現行システム調査へ進みます。

次回はシステム導入計画ではなく、『DX戦略』についての進め方と事例説明です。

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