ERPシステムのリニューアルとDX推進戦略の関連性を紐解く

ERP再生計画第56回「ERP再生計画の策定:2025年の崖から更にその先へ、ERPのロードマップを考える~戦略編3 :10年先を見据えた3ステップのERPリニューアル構想~」

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第84回「ERPシステムのリニューアルとDX推進戦略の関連性を紐解く~2025年問題とDX推進をERP再生/サプライチェーン強靭化から考察する、その2~」をご紹介します。

□はじめに

 2025年の日本は猛暑が続いています。6月半ばに35度になってから、丸2カ月猛暑が続いています。そして、まだまだ夏が続きます。経済面では、トランプ関税が8月から発動されていますが、これからその影響が企業業績に表れてくると言われています。アメリカ経済は依然強く、手堅い経済指標を背景に株価は過去最高値となっています。景気の停滞(スタグネーション)と物価の上昇(インフレーション)が同時に進行する経済現象スタグフレーションがはじまると言われていますが、アメリカは巨大な需要で世界経済をまわしていることが分かります。

 ビジネス環境が日々ダイナミックに変化していますから、ヒトもシステムもこれにあわせて素早く変化に対応しなければなりません。そうしないと、現実と乖離してビジネスがまわらなくなります。では、何を見て判断すれば良いのでしょうか?

ERPシステムや経営管理システムは、様々な経営指標を自動的に算定してくれます。

 売上高・収益額は、ERPで即時に自動計算することができます。さらにここから経営状況を示すROA(総資本利益率)やFCF(フリーキャッシュフロー)など経営指標が算出できます。企業の稼ぐ力・収益力を示すROS(売上高経常利益率)やEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)、企業の収益力を示すROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)、さらにCO2排出量やリサイクル率などサステナビリティ関連の環境パフォーマンス指標が最近トレンドとなっている経営管理指標です。

 経済が中長期的に安定していている場合は、従来指標の推移を見ていれば良いのですが、市場トレンドやサプライチェーンが大きく変わるときには、こうした経営指標に表れない変化を見逃すことがあります。トランプ大統領の相互関税は、間違いなく企業業績に大きな影響を与えると考えられますが、「何が変わるのか?いつ業績に影響が出るのか?どうすれば対処できるのか?」という変化察知、未来予測、即応体制を整えて万全の対応を目指す必要があります。「2025年の崖」をガラガラ滑り落ちて行く状況は避けたいところです。古いままのERPシステムや経営指標を使い続けるリスクは、変化に気づいた時には手遅れとなってしまうことです。これまでとは違った変化を機敏に察知、予測するための先行情報を取得する最も重要なデータがERPシステムのデータベースにあるはずです。これが、ERPをリニューアルする真の目的となります。機能要件よりも、予兆データ収集・データ活用によるデータドリブン経営が目指すゴールです。

(図表1、ERPシステムは「機能中心」から「データ中心」AI分析/予測へ進化)
(図表1、ERPシステムは「機能中心」から「データ中心」AI分析/予測へ進化)

■ERPに求める目的は「業務処理機能」なのか、「経営判断情報」なのか?

 ERPシステムは、現在クラウド化への過渡期にあります。コストと効率の両面から、ERPシステムのクラウド化は進むと思いますが、ここでSaaS型ERP(標準業務プロセスに沿ったERP)を選ぶ場合と、IaaS型ERP(独自のアドオンやカスタマイズをしたERP)を導入する場合で主な目的が変わります。

前者は、企業独自の機能要件対応やニーズにきめ細かく対応できませんが、経営判断情報としての価値は高くなります。つまり、標準業務プロセスをベースとしたデータ蓄積をAIエージェントで分析すれば、他社との違いや未来予測を正確かつ具体的に見つけ出しやすくなります。これに対して、独自のアドオン、カスタマイズしたIaaS型ERPを選んだ場合には、業務処理機能のスピード向上と詳細データ収集が可能となって業務処理能力を高めることが出来ます。多くのERPベンダが、「フィット・トゥー・スタンダード」を掲げる理由は、細かい業務要件への対応よりも変化察知・対応能力を重視していることによります。

つまり、ERPシステム刷新は、経営判断情報をAIエージェントや経営者向けに再構築して、これまでの経験や知識では対処できない不透明な未来に備える取り組みだと言えます。もちろん、業務要件にきめ細かく対応する機能も同様に重要なので、どちらを優先するかという点が判断のポイントです。

 前回で「基幹系システムの現状分析」と「課題の整理とリスク評価」からERPシステム刷新の基本方針と対策を決めていくというのは上記のような方針決定に必要となるからです。今後さらに人手不足や自動化、AI導入が加速すると思われますが、5年先、10年先を考えると過去の踏襲よりも未来への布石としてERPシステムリニューアルを考える必要があります。

SIベンダ系は現行システムを踏襲した機能対応には強く、コンサル系は未来志向で成長戦略や今後の見通しを考慮した柔軟性の高いシステム提案を得意としています。10年に一度の機会なので、両方の提案を見比べて、良いところ取りすることがお勧めです。

■ERPシステム刷新とDX推進のポイントは先を見据えた成長戦略

 IPA情報処理推進機構の「DX動向2025」によると、DXの取り組み状況については、日本は米国やドイツと比較しても傾向はそんなに変わらないが、DXによる成果については、日本は米国やドイツに比べて割合が低くなっている。
DXによる経営面の成果は、日本がコスト削減や製品提供日数削減の回答が多いのに対し、米国とドイツでは利益や売上高の増加、市場シェア率や顧客満足度の向上の回答が多くなっている。
業務プロセス最適化の取り組み状況では、日本が個別の業務の最適化に取り組んでいる割合が高いのに対し、米国とドイツでは全社最適化に取り組んでいる割合が高くなっている。
総じて、日本のDXは部分最適に止まり、業務効率化や生産性向上といった“内向き”の取り組みを行っているのに対し、米国とドイツのDXは全体最適を志向し、顧客や市場に価値を提供するといった“外向き”の取り組みを行っている傾向が明らかになった、とのことです。

(図表2、DXの取り組み状況は、日本・米国・ドイツで比較しても傾向は変わらない)
(図表2、DXの取り組み状況は、日本・米国・ドイツで比較しても傾向は変わらない)

 日本のDXは成功率が低く、コスト削減や、設備の予知保全などの「内向きのDX」に偏っていて、DX推進による企業価値はあまり高まりません。部分最適で内向きのDXに取り組むケースが多く、その結果ヨコ展開・全社展開が出来ないものが多く見られます。
これに対して、米国とドイツのDXは顧客や市場に価値を提供するなど「外向きのDX」に注力しています。
具体的には、売上高の増加や顧客満足度向上につながる取り組みによって企業価値を高めるという内容です。DX推進は、成長戦略に活かしてこそ高い効果が見込めます。

(図表3、部分最適“内向きDX”から全体最適“外向きDX”へ変えていく必要がある)
(図表3、部分最適“内向きDX”から全体最適“外向きDX”へ変えていく必要がある)

DXには、内向きのDXと外向きのDXがあります。

 企業価値を高めるためにはこの内向きと外向きをバランス良く進める必要があります。この両方のDXを上手くまわすためには、DX推進体制と実行計画と取るべきアクションを考える必要があります。
まず推進体制ですが、経営層が主導するDX推進委員会組織を作ります。ここで、テーマごとに、経営層がコミットして全社横断的な実行組織のDX推進室を構築します。
各部門から選抜して責任者を任命します。これまでは、IT部門や事業部門などへ丸投げしたり、外部コンサル会社にフルアウトソースしたりしてお金は出すけれど責任は負わない杜撰なケースがありました。

(図表4、DX推進体制‧実行計画と取るべきアクション)
(図表4、DX推進体制‧実行計画と取るべきアクション)

 DX推進室は、テーマごとに進捗状況を確認して適切かつ計画に沿ってDXプロジェクトを進めるとともに、経営層のDX推進委員会へ報告を行います。
プロジェクト推進の障害やトラブルなど、経営層のDX推進委員会サポートが必要な場合は随時支援を要請します。また、DXプロジェクトをやりっぱなしにしないようにヨコ展開や全社展開を促します。
成功したDXプロジェクトは、しっかり評価を行いデジタル人材の育成とノウハウ化します。
参考として、内向きのDX事例について大企業と中堅中小企業の事例を図表でご紹介します。

(図表5、内向きのDX戦略、社内業務効率化の事例)
(図表5、内向きのDX戦略、社内業務効率化の事例)

国内企業のERPシステムは、これまで会計中心に導入しているケースが大半です。
しかし会計だけでは、企業全体・グループ全体を網羅した事業推進には不足です。そこで、ERPシステムをリニューアルして会計だけではなく在庫、購買、販売などERP導入領域を広げるケースが増えています。これと並行してDX推進することで、ダイナミックに企業体質を強化することが可能となります。
次回は、事例からその詳細について紹介します。

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