生成AIとエージェントAIの次に取り組むべきフィジカルAIとは ~2030年頃に主流となるフィジカルAIにいまからどう取り組めば良いのか~

ERP再生計画第56回「ERP再生計画の策定:2025年の崖から更にその先へ、ERPのロードマップを考える~戦略編3 :10年先を見据えた3ステップのERPリニューアル構想~」

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第91回「生成AIとエージェントAIの次に取り組むべきフィジカルAIとは~2030年頃に主流となるフィジカルAIにいまからどう取り組めば良いのか~」をご紹介します。

はじめに

 トランプ大統領が電撃的に開始した対イラン攻撃には、アンソロピック社のAIが使われているとロイターなど海外メディアが報じています。このニュースのように、戦争手段としてもAI技術は重要なキーテクノロジーとなりつつあります。

(参考情報:米、イラン攻撃にアンソロピックAI使用 前日に使用停止命令も、URL: https://jp.reuters.com/markets/global-markets/7OB25M65GJPFBF4HDH36X7EXUI-2026-03-02/

 ご存じの通り、既に生成AIやエージェントAIは日常生活や仕事のみならず、あらゆる領域にものすごい勢いでその利用が拡大しています。AIバブル!という声も聞こえてきますが、バブルで泡と消え去るのか、あるいはこのままAIが突き抜けて世界と日常を根本的に書き換えるのかは、現時点で予測するのは難しいと言えます。ただ一つだけ確実なことは、いま何もせず状況を見守っているだけでは確実に衰退していくという危機感です。生き残るためには、自ら率先してAIに触れて、AIを使いこなし続けるスキルと経験が求められます。(個人的には、自衛隊もこの国と国民、自衛隊員自身の身を守るために使える技術は積極的に使って欲しいと思います。)

「AIやデジタルは良くわからない」という経営者やリーダー、「とりあえず、専門家を呼んで任せよう」という人達がいまでも会社の判断を下し続けている企業は、5年後には消えているかもしれません。少なくとも、成長企業になるチャンスはゼロに近い気がします。AI技術の進化と変化は、あまりにも早く予想を超えてくるため、この先は判断を先送りするのではなく「火中の栗ならぬAIを使い続けることだけ」が、生き残る唯一の選択肢ではないかと感じる日々です。

(図表1、参考:AI導入/AI活用に対する取り組みの違い)

 AI市場の成長は、生成AIによって爆発的に拡大しています。世界のAI市場規模(売上高)は、2024年には1,840億ドル(約28兆7千億円)、2030年には8,267億ドル(約130兆円)まで拡大すると予測されています(図表Ⅱ-1-9-1)。日本のAIシステム市場規模(支出額)は、2024年に1兆3,412億円(前年比56.5%増)となっており、今後も確実に成長を続け、2029年には4兆1,873億円まで拡大すると予測されています。

(図表2、日本のAI市場、2024年は1兆3,412億円→2029年は4兆1,873億円)

 前回は、生成AIからエージェントAIへのレベルアップについて先行事例をまじえて、ご紹介しました。生成AIは、「人からの指示、AIによるコンテンツ生成」という直線的に実行されるのに対して、エージェントAIは、「人からの指示、AIが自律化して作業はAIが、判断は人が行う」という知性化されているところに違いがあります。エージェントAIは、回答を求めて縦横に作業します。AIによる業務処理の自律化が、一瞬で実現するため人による人海戦術が無意味となるのです。人海戦術は、人によるエラーや作業時間が掛かって判断が遅れるというリスクもあります。

(図表3、AI技術による業務の自律化:生成AIからエージェントAIの変化点)

今回は、エージェントAIが物理的な設備やロボット、機器類などフィジカルに接続されたAI、つまりフィジカルAIについて説明するとともに、どのように取り組むべきかをできるだけ簡単に説明したいと思います。

フィジカルAIの先行事例と中堅中小企業でも可能なフィジカルAIへの取り組み

 エージェントAIは、特定のゴール(目的)に向かって、人が出した目的(指示)をAIがタスク分解して、そのタスクをAIが実行して結果を自律的に得るという仕組みです。その具体的な事例は、前回のトヨタ自動車「O-Beyaシステム」や横河電機のプラント自律制御AIなどです。これがさらに進化して、設備やデバイスにAIが直結して目的を達成する仕組みがフィジカルAIです。

「フィジカルAI」とは、AIの頭脳で判断して、ロボットや設備・機器などを物理的に動かすAI技術です。これまでのロボットは、「決められた動作や作業を繰り返す」ことが得意でしたが、フィジカルAIでは、「周囲の状況を判断して、臨機応変に動作する」ことができます。IoTのセンサーやカメラが、ロボットや設備の目や感覚器となって、そのデータをAIが認知してロボットや設備に次の動作をフィードバックします。つまり、リアルタイムで需要の変化を予測し、自律的に計画を立て生産にあたります。生産開始後に需要予測が変化した場合にも柔軟に生産計画を変更することができるのが特徴です。

 このように、AI技術はさらに進化して我々の仕事に組み込まれていきます。ERPシステムなどの基幹系システムや、社内や工場にある大量のドキュメント、設備やロボットに搭載されているカメラやセンサーなどのデータの価値が高まるとともに、人間の役割が大きく変わることになります。NVIDIA社のホームページでは、NVIDIA COSMOS(フィジカルAIのプラットフォーム)にその説明が記載されています。(URL:https://www.nvidia.com/ja-jp/ai/cosmos/)具体的な事例や説明、動画がありますが、AI技術やIT用語が多く使われているので、1つ1つ丁寧に読み解く必要があります。1つだけ留意すべき点として、現場業務や作業管理が紙やExcelなど属人的かつアナログなものだと、まずこの情報をデジタル化(データ化して、そのデータを整理して正規化する)必要があります。情報をクラウド基盤上でAIレディ(AIデータ活用準備OK)にしておく必要があります。工場や倉庫では、OTデータ管理(MES、WMS、DCA/SCADAなど)に取り組む必要があります。

(図表4、「エージェントAI」から「フィジカルAI」の時代へ)

 国内におけるフィジカルAIの先行事例としては、知能ロボットコントローラーを手掛ける「MUJIN」のロボット知能化技術(MujinOS)とドコモビジネスの通信技術の融合によるフィジカルAI・ロボットの高度化事例があります。物流量の変化や需要変動を、ERPやMESなどの基幹システムから予測して、この予測に基づいた業務実行をロボットへ直接フィードバックすることで状況に対応した柔軟なロボット作業が可能となります。具体的な利用シーンとしては、急な出荷依頼や計画変更に即応できる仕組みとして、フィジカルAIを導入したイメージです。得意先より、至急要請を受けて商品の緊急出荷を行うようなケースで、トラックの発着時間に間に合わせるような計画変更や作業実行をAIでシミュレーションして、端末(ロボットや搬送機など)へ実行指示します。その状況をリアルタイム監視して、遅れやトラブルが発生すると現場にいる人がサポートに入ります。従来のやり方では、人海戦術となるため、残業や追加コストが発生しますがフィジカルAIでは、こうしたリスクも想定した準備が可能となります。いずれにしても、ERPやMESのデータがリアルタイムに収集できて、現場作業の状況がリアルタイムに把握できる仕組みが最低限必要です。しかし、ひとつの生産ラインだけ作り、これで実証実験すれば、小さく始めてその効果を定量的に把握することが出来ます。効果が出れば、このラインを増設していけば良いのです。

(図表5、フィジカルAIによるロボットと通信の融合、物流量変動に自律的に対処)

 Mujinとドコモビジネスにより、フィジカルAIの事例は、大手企業の物流業務や倉庫業務を想定した大掛かりな仕組みですが、中小中堅企業におけるフィジカルAIの取り組みも基本的には同じです。しかし、デジタル技術とAI技術はその試作コストを大きく下げることが可能です。まず、フィジカルAIの考え方を簡単に紐解くと、端末となる物理的な設備やロボット、機器類からのデータをリアルタイムに取得して、このデータを統合データ基盤(クラウド基盤など)で管理します。次に、予測される変化や目的に合わせてデータに基づいたシミュレーションを行い、これを端末(設備、ロボット、機器類など)の制御データとして変換します。この制御データを通信で端末に送り込めば、遠隔監視/遠隔制御することが可能となります。つまり、端末の機器や設備を遠隔で監視/制御する仕組みを構築するところからなので、管理・制御を対象とする端末があればすぐにPoCを行うことができます。最近では、クラウド型カメラサービス「ソラカメ」を提供しているソラコムが、KDDIが提供する衛星通信サービス「Starlink Business」と組み合わせて、離島における廃棄物処理インフラの遠隔映像監視を実施した事例が発表されています。

(図表6、事例「ソラカメ」とStarlinkを組み合わせた遠隔監視ソリューションの実証)

今回は、企業向けAI技術で最も注目されているフィジカルAIについて、その事例などを交えてご紹介しました。生成AIやエージェントAIは、ERPなどバックオフィス系の基幹系システムのデータがあれば概ね導入できますが、フィジカルAIは端末データのリアルタイム取得と、その受け皿となる統合データ基盤(クラウド基盤、IT+OTデータレイクなど)が必要となります。を行う生成AIから、目的を示すとその結果を出す判断を自律的に行うエージェントAIでは、その生産性や得られる結果が大きく異なります。そして、次回は、エージェントAIに物理的に設備やロボットなどが繋がったフィジカルAIについてお話します。